iDeCo(イデコ)は途中解約できる?解約するための条件・手続き方法をFPが解説

iDeCo(イデコ)を始めたものの、「毎月の支払いがきつくなった」「急にお金が必要になった」という理由で途中解約を考えている方も多いのではないでしょうか。

結論から言うと、iDeCoは原則として60歳まで途中解約することはできません。ただし、例外的に解約できるケースもあります。

この記事では、iDeCoの途中解約について詳しく解説していきます。解約の条件や手続き方法、そして解約以外の選択肢についても紹介するので、今の状況に合った最適な判断ができるようになるでしょう。

iDeCoで困っている方の不安を少しでも軽くできるよう、わかりやすくお伝えしていきますね。

iDeCoの途中解約について知っておきたい基本のこと

iDeCoの途中解約について理解するために、まずは基本的な仕組みを確認しておきましょう。

  • iDeCoは原則として60歳まで途中解約不可
  • 老後資金作りが目的の制度だから
  • 「解約」と「拠出停止」は全く違う概念

それぞれ詳しく見ていきます。

iDeCoは原則として途中解約できない仕組み

iDeCoは確定拠出年金法に基づく年金制度です。現役世代が資産を形成し、老齢世代になってから受け取る仕組みとして設計されています。

そのため、積み立てた資産は老齢世代になってからの給付に充てる目的で運用されており、現役世代では資産の取り崩しが法令上制限されているのです。

60歳になるまでは、基本的に解約して今までに積み立てた掛金を引き出すことはできません。これは「やっぱりやめたい」という理由では解約できないということを意味します。

なぜ途中解約が制限されているの?

iDeCoで途中解約が制限されている理由は明確です。この制度が老後資金作りを目的としているからです。

もし簡単に解約できてしまうと、老後のための資産形成という本来の目的が果たせなくなってしまいます。また、iDeCoには所得控除などの税制優遇措置が講じられているため、その恩恵を受けながら途中で資産を引き出すのは制度の趣旨に反するのです。

つまり、途中解約の制限は制度の目的を守るための重要なルールなのです。

「解約」と「拠出停止」の違いを理解しよう

ここで重要なのが、「解約」と「拠出停止」の違いです。多くの方がこの2つを混同してしまいがちですが、全く異なる概念です。

解約とは、iDeCoの契約を終了して積み立てた資産を引き出すこと。一方、拠出停止とは、毎月の掛金の支払いを止めることです。

拠出停止の場合、積み立てた資産はそのまま運用を続けることができます。「お金が払えなくなった」という場合でも、解約ではなく拠出停止という選択肢があることを覚えておきましょう。

iDeCoを途中解約できる3つのケース

原則として途中解約できないiDeCoですが、例外的に解約できるケースが存在します。

  • 脱退一時金を受け取る場合
  • 死亡一時金を受け取る場合
  • 障害給付金を受け取る場合

これらのケースについて、具体的な条件を確認していきましょう。

ケース1:脱退一時金を受け取る場合

脱退一時金は、一定の条件を満たした場合に受け取ることができる一時金です。ただし、条件は非常に厳しく設定されています。

脱退一時金の受給条件7つ

脱退一時金を受け取るためには、以下の7つの条件をすべて満たす必要があります。

1つでも欠けると受給できないため、注意深く確認しましょう。まず、60歳未満であることが前提条件です。そして、企業型DCの加入者でないこと、iDeCoに加入できない者であることが求められます。

さらに、日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でないこと、障害給付金の受給権者でないことも条件に含まれます。

国民年金保険料免除者とは?

脱退一時金の受給条件の中で、特に理解が必要なのが「国民年金保険料免除者」という条件です。

これは、経済的な理由などで国民年金保険料の支払いが免除されている方を指します。具体的には、所得が少ない、失業している、学生である、などの理由で保険料の納付が困難な場合に適用される制度です。

この条件に該当する方は、iDeCoに加入できないため、脱退一時金の受給対象となる可能性があります。

通算拠出期間5年以下または資産額25万円以下の条件

脱退一時金を受け取るためのもう一つの重要な条件が、通算拠出期間が5年以下、または個人別管理資産の金額が25万円以下であることです。

通算拠出期間とは、企業型DCとiDeCoの両方で掛金を拠出していた期間の合計を指します。つまり、長期間にわたって積み立てを続けていた方は、この条件を満たすことが難しくなります。

また、資産額が25万円を超えている場合も、脱退一時金の受給は困難です。

ケース2:死亡一時金を受け取る場合

iDeCoの加入者が亡くなった場合、遺族は死亡一時金を受け取ることができます。これは途中解約の例外的なケースの一つです。

遺族が受け取れる死亡一時金の仕組み

死亡一時金は、加入者が積み立てていた資産を遺族が受け取れる制度です。加入者の死亡によってiDeCoの契約が終了し、それまでの積立資産が一時金として支給されます。

この場合、通常の受給年齢に関係なく資産を受け取ることができます。ただし、受け取りには所定の手続きが必要です。

受給できる遺族の範囲

死亡一時金を受け取ることができる遺族の範囲は、法律で定められています。

基本的には、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順序で受給権が発生します。ただし、実際の受給権者は、加入者が生前に指定していた受益者や、法定相続人の中から決定されることになります。

ケース3:障害給付金を受け取る場合

加入者が高度障害状態となった場合、障害給付金として資産を受け取ることができます。これも途中解約の例外的なケースです。

高度障害状態の認定基準

障害給付金を受け取るためには、法律で定められた高度障害状態に該当する必要があります。

具体的な認定基準は、身体機能の著しい障害や、日常生活に重大な支障をきたす状態などが含まれます。医師の診断書や各種証明書類による客観的な証明が必要です。

障害給付金の受け取り方法

障害給付金は、一時金として受け取ることも、年金として分割して受け取ることも可能です。

受け取り方法は加入者の状況や希望に応じて選択できますが、税務上の取り扱いが異なるため、専門家に相談することをおすすめします。

iDeCoの途中解約手続きの流れ

実際に途中解約の条件を満たした場合、どのような手続きが必要なのでしょうか。

  • 脱退一時金の請求手続き
  • 死亡一時金・障害給付金の請求手続き

手続きの流れを詳しく確認していきます。

脱退一時金の請求手続き

脱退一時金の請求は、自分で手続きを行う必要があります。まずは条件を満たしているかどうかを慎重に確認しましょう。

必要な書類と提出先

脱退一時金の請求には、裁定請求書の提出が必要です。この書類は、iDeCoを運用している運営管理機関から入手できます。

提出先は、企業型DCまたはiDeCoの記録関連運営管理機関、または国民年金基金連合会です。どこに提出すべきかは、加入していた制度によって異なるため、事前に確認が必要です。

また、条件を証明するための各種書類も併せて提出する必要があります。

手続きにかかる期間

脱退一時金の手続きにかかる期間は、書類の準備から実際の受け取りまで、通常数週間から数か月程度です。

書類に不備があると手続きが遅れる可能性があるため、提出前に運営管理機関に確認することをおすすめします。また、手続き中は運用も停止するため、市場の変動による影響も考慮しておきましょう。

死亡一時金・障害給付金の請求手続き

死亡一時金や障害給付金の請求手続きは、それぞれ特有の書類が必要です。

遺族が行う手続きの注意点

死亡一時金の請求では、加入者等死亡届の提出が必要です。この届出には死亡診断書などの添付書類も必要となります。

遺族が手続きを行う場合、相続関係を証明する書類も併せて準備する必要があります。手続きが複雑になることが多いため、専門家のサポートを受けることも検討しましょう。

障害給付金請求時の必要書類

障害給付金の請求には、医師の診断書や障害の程度を証明する書類が必要です。

これらの書類は、障害の認定基準を満たしていることを客観的に証明するためのものです。書類の準備には時間がかかることが多いため、早めに運営管理機関に相談することをおすすめします。

掛金が払えなくなったときの対処法

iDeCoの掛金が払えなくなった場合、途中解約以外にもいくつかの選択肢があります。

  • 掛金額を減額する方法
  • 掛金の拠出を一時停止する方法
  • 再開したいときの手続き

これらの方法について詳しく見ていきましょう。

掛金額を減額する方法

毎月の掛金の支払いが困難になった場合、まず検討したいのが掛金額の減額です。

最低拠出額5,000円まで減額可能

iDeCoの掛金は、最低月々5,000円まで減額することができます。減額は1,000円単位で調整可能です。

例えば、自営業者の方が毎月上限の68,000円を拠出していた場合、5,000円まで減額すれば月々63,000円の負担軽減になります。これだけでも家計への影響は大きく変わるでしょう。

減額することで税制優遇のメリットは小さくなりますが、完全に停止するよりも将来の資産形成を継続できます。

年1回の変更制限に注意

掛金額の変更は年1回までという制限があります。そのため、減額を検討する際は慎重に金額を決める必要があります。

変更手続きは、「加入者掛金額変更届」を運営管理機関に提出することで行えます。書類の記入例は各金融機関のウェブサイトで確認できるので、事前にチェックしておきましょう。

掛金の拠出を一時停止する方法

掛金の減額でも対応が困難な場合は、拠出を一時停止することも可能です。

運用指図者への変更手続き

掛金の拠出を停止すると、加入者から「運用指図者」に変更されます。運用指図者になっても、それまで積み立てた資産の運用は継続されます。

停止手続きは、「加入者資格喪失届」を運営管理機関に提出することで行えます。この手続きにより、毎月の掛金負担はなくなりますが、運用は続けることができるのです。

停止中にかかる手数料

拠出を停止しても、毎月の口座管理手数料は継続してかかります。金額は運営管理機関によって異なりますが、月数百円程度が一般的です。

手数料は積立資産から差し引かれるため、長期間停止すると資産が目減りする可能性があります。停止期間はできるだけ短くすることを心がけましょう。

再開したいときの手続き

拠出を停止した後、経済状況が改善したら再開することも可能です。

加入申込み手続きが再度必要

拠出を再開する際は、新規加入と同様の手続きが必要です。つまり、再度加入申込み手続きを行わなければなりません。

手続きには時間がかかることが多いため、再開を検討している場合は早めに運営管理機関に相談しましょう。また、再開時の掛金額も改めて設定する必要があります。

停止期間の通算加入期間への影響

拠出停止期間は、通算加入期間にカウントされません。通算加入期間は60歳からの受給開始年齢に影響するため、停止期間が長くなると受給開始が遅れる可能性があります。

例えば、通算加入期間が10年未満の場合、60歳から受給を開始できず、段階的に65歳まで受給開始年齢が繰り下がります。

転職・退職時のiDeCo手続き

転職や退職の際は、iDeCoの手続きが必要になることがあります。

  • 会社員から自営業になる場合
  • 企業型DCがある会社への転職
  • 無職になった場合の継続方法

それぞれのケースについて確認していきます。

会社員から自営業になる場合

会社員から自営業になると、iDeCoの拠出限度額が変わります。

会社員時代は月額23,000円が上限でしたが、自営業になると月額68,000円まで拠出可能になります。ただし、国民年金の第1号被保険者になるため、国民年金保険料の納付が前提条件です。

手続きは「加入者被保険者種別変更届」を提出することで行えます。

企業型DCがある会社への転職

企業型DCがある会社に転職する場合、iDeCoから企業型DCへの資産移換が必要になることがあります。

ただし、2022年10月からは企業型DCとiDeCoの併用が可能になったため、条件を満たせば両方を継続できる場合もあります。転職先の制度内容を確認して、最適な選択を行いましょう。

無職になった場合の継続方法

無職になった場合でも、iDeCoは継続できます。

ただし、国民年金の第1号被保険者になるため、国民年金保険料の納付が必要です。また、所得がない場合は所得控除のメリットを受けられないため、拠出を停止することも検討しましょう。

iDeCo途中解約時の税金と注意点

途中解約が可能な場合でも、税金や各種デメリットがあります。

  • 脱退一時金にかかる税金
  • 税制優遇を失うデメリット
  • 解約前に検討すべきポイント

これらの点について詳しく確認していきます。

脱退一時金にかかる税金

脱退一時金は、本来60歳以降に受け取るべき資産を早期に受け取ったことになるため、税制上の優遇は受けられません。

脱退一時金は一時所得として課税対象となります。一時所得の計算では、受け取った金額から50万円の特別控除を差し引いた金額の2分の1が課税所得となります。

通常の老齢給付金と比べて税負担が重くなる可能性があるため、注意が必要です。

税制優遇を失うデメリット

iDeCoの大きなメリットの一つが税制優遇です。途中解約すると、これらの優遇措置を十分に活用できなくなります。

拠出時の所得控除、運用時の非課税、受給時の退職所得控除など、長期間継続することで得られるメリットを放棄することになります。短期的な資金需要のために長期的なメリットを失うのは、非常にもったいないことです。

解約前に検討すべきポイント

途中解約を検討する前に、本当に他に選択肢がないかを慎重に検討しましょう。

まず、掛金の減額や拠出停止で対応できないかを確認します。また、家計の見直しや他の資金調達方法がないかも検討しましょう。iDeCoは老後資金作りの重要な手段なので、できる限り継続することをおすすめします。

iDeCo以外の老後資金作りの選択肢

iDeCoが継続困難な場合、他の老後資金作りの方法も検討しましょう。

  • つみたてNISAとの併用
  • 個人年金保険という選択肢
  • 企業型DCとの使い分け

これらの選択肢について見ていきます。

つみたてNISAとの併用

つみたてNISAは、iDeCoと異なり途中解約が自由にできる制度です。

年間40万円まで投資でき、運用益が非課税になります。60歳まで資金を引き出せないiDeCoと違い、必要な時にいつでも売却できるため、より柔軟な資産形成が可能です。

iDeCoの拠出を停止した場合、つみたてNISAで老後資金作りを継続することも一つの選択肢です。

個人年金保険という選択肢

個人年金保険は、保険会社が提供する老後資金作りの商品です。

iDeCoほどの税制優遇はありませんが、個人年金保険料控除を受けることができます。また、元本保証がある商品もあるため、リスクを抑えた資産形成を希望する方には適しているかもしれません。

企業型DCとの使い分け

勤務先に企業型DCがある場合は、そちらを優先することも考えられます。

企業型DCでは会社からの拠出もあるため、自己負担を抑えながら老後資金を準備できます。iDeCoとの併用も可能ですが、拠出限度額に制限があるため、バランスを考えて活用しましょう。

まとめ:iDeCoの途中解約は慎重に判断しよう

今回の記事では、iDeCoの途中解約について詳しく解説してきました。以下に重要なポイントをまとめます。

  • iDeCoは原則として60歳まで途中解約できない制度
  • 例外的に解約できるのは脱退一時金、死亡一時金、障害給付金の3ケース
  • 脱退一時金の受給条件は非常に厳しく、7つの条件をすべて満たす必要がある
  • 掛金が払えない場合は減額や拠出停止という選択肢もある
  • 途中解約すると税制優遇のメリットを失ってしまう
  • 解約前に他の選択肢を十分検討することが大切
  • つみたてNISAや個人年金保険など他の老後資金作りの方法もある

iDeCoは老後の安心のための大切な制度です。一時的な困難で解約を考える前に、まずは減額や停止などの方法を検討してみてください。どうしても判断に迷う場合は、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することをおすすめします。

あなたの将来の安心のために、最適な選択ができることを願っています。