別居を始めたものの、生活費のことで頭を悩ませていませんか。夫婦が離れて暮らすようになっても、法律上はまだ夫婦です。収入の少ない方が多い方に生活費を請求できる権利があります。
この生活費のことを「婚姻費用」と呼び、話し合いで決まらない場合は家庭裁判所で「分担請求調停」という手続きを利用できます。調停では調停委員が間に入って、お互いの収入や生活状況を聞きながら適切な金額を決めてくれます。
この記事では、婚姻費用の分担請求調停について、申し立ての方法から実際の流れまで、わかりやすくお伝えします。一人で悩まず、まずは制度を正しく理解することから始めましょう。
婚姻費用の分担請求調停とは?基本的な仕組みを知ろう
婚姻費用の分担請求調停について、まず基本的な仕組みを理解しておきましょう。
婚姻費用の分担請求調停の特徴は次のとおりです。
- 家庭裁判所で行われる話し合いの手続き
- 調停委員が夫婦の間に入って調整してくれる
- 双方の収入や生活状況を考慮して金額を決める
- 合意できない場合は自動的に審判に移行する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
そもそも婚姻費用って何?
婚姻費用とは、夫婦と子どもが生活するために必要なお金のことです。食費や住居費、子どもの教育費など、家族が普通に暮らすためにかかる費用全般を指します。
別居していても夫婦である以上、お互いに助け合う義務があります。これを「相互扶助義務」といい、民法で定められています。収入の多い方が少ない方の生活を支える責任があるのです。
大切なのは、この義務が「生活保持義務」だということ。単に最低限の生活を保障するだけでなく、自分と同じレベルの生活を相手にも保障しなければなりません。
分担請求調停が必要になるケース
夫婦で話し合っても婚姻費用について合意できない場合に、調停の申し立てを検討します。よくあるのは次のようなケースです。
相手が婚姻費用の支払いを拒否している場合。「別居したのはそちらの都合だから」「離婚するまで一切払わない」などと言われることがあります。
金額について意見が合わない場合も多いです。支払う側は少なく、受け取る側は多くと、お互いの希望が大きく違うことがよくあります。
そもそも話し合いに応じてもらえない場合もあります。連絡を取ろうとしても無視される、会うことを拒否されるといった状況です。
調停と審判の違い
調停は話し合いによる解決を目指す手続きです。調停委員が間に入りますが、最終的には当事者同士が合意することで成立します。
一方、審判は裁判官が判断を下す手続きです。調停で合意できなかった場合、自動的に審判に移行し、裁判官が一切の事情を考慮して婚姻費用の金額を決めます。
調停の方が柔軟な解決が期待できますが、審判では法的な基準に基づいた客観的な判断が下されます。どちらも強制力があり、決まった内容を守らない場合は強制執行が可能です。
別居中でも生活費をもらえる法的根拠
別居中に生活費を請求できる根拠について、法律の観点から整理してみましょう。
法的根拠として重要なポイントは以下のとおりです。
- 民法に定められた夫婦の相互扶助義務
- 生活保持義務という高いレベルの扶養義務
- 別居していても婚姻関係が続く限り有効
- 子どもがいる場合はより手厚い保護
詳しく解説していきます。
夫婦の相互扶助義務とは
民法752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。また、民法760条では「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」とされています。
この扶助義務は、別居していても婚姻関係が続く限り消えることはありません。たとえ夫婦仲が悪くなって離れて暮らすことになっても、法律上の夫婦である以上、お互いを支え合う責任があるのです。
重要なのは、この義務が一方的なものではないということ。収入の多い方が少ない方を支えるという形になりますが、基本的にはお互いに助け合う関係です。
収入が少ない方が請求できる権利
婚姻費用の分担は、夫婦の収入差に基づいて決まります。収入の多い方を「義務者」、少ない方を「権利者」と呼びます。
権利者は義務者に対して、生活に必要な費用の分担を求めることができます。これは法律で認められた正当な権利であり、遠慮する必要はありません。
ただし、権利者が有責配偶者(不倫やDVなど、別居の原因を作った側)の場合は、婚姻費用が減額されることがあります。とはいえ、完全にゼロになることは稀で、最低限の生活保障は認められるのが一般的です。
子どもがいる場合の特別な配慮
未成年の子どもがいる場合、婚姻費用には子どもの養育費も含まれます。子どもの生活費、教育費、医療費などが考慮されるため、夫婦だけの場合よりも金額が高くなります。
子どもと同居している親が権利者となることが多く、別居している親が義務者として婚姻費用を支払います。子どもの年齢や人数によって金額が変わるため、算定表を使って具体的な金額を計算します。
私立学校に通っている、特別な医療費がかかるなど、標準的でない事情がある場合は、それらも考慮して金額が調整されます。
婚姻費用分担請求調停の申し立て方法
実際に調停を申し立てる手続きについて、具体的な方法をお伝えします。
申し立てに必要な準備は次のとおりです。
- 必要書類の収集と作成
- 申し立て先の家庭裁判所の確認
- 申し立て費用の準備
- 申立書の正確な記入
順番に説明していきます。
申し立てに必要な書類一覧
婚姻費用分担請求調停の申し立てには、以下の書類が必要です。
申立書とその写し1通。裁判所のホームページからダウンロードできます。事情説明書、連絡先等の届出書、進行に関する照会回答書も同時に提出します。
夫婦の戸籍謄本(3か月以内に発行されたもの)が必要です。本籍地の市区町村役場で取得できます。
申立人の収入関係の資料も重要です。給与所得者なら源泉徴収票や給与明細、自営業者なら確定申告書の写しを用意します。
相手方の収入がわかる資料があれば、それも提出しましょう。ただし、わからない場合は調停の中で明らかにしていくことも可能です。
申し立て先の家庭裁判所の選び方
原則として、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。相手が東京に住んでいれば東京家庭裁判所、大阪なら大阪家庭裁判所といった具合です。
ただし、当事者双方が合意すれば、別の家庭裁判所を選ぶこともできます。お互いにとって通いやすい場所を選ぶことが可能です。
管轄がわからない場合は、裁判所のホームページで確認するか、直接電話で問い合わせましょう。間違った裁判所に申し立てると、正しい裁判所に移送されるため、時間がかかってしまいます。
申し立てにかかる費用は約2,000円
調停の申し立てにかかる費用は比較的安価です。収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手代(裁判所によって異なりますが800円程度)で、合計約2,000円です。
収入印紙は申立書に貼付します。郵便切手は裁判所から当事者への連絡に使われるもので、具体的な金額や種類は各裁判所で指定されています。
弁護士に依頼する場合は別途弁護士費用がかかりますが、調停自体の費用は非常に安く設定されています。経済的な負担を理由に諦める必要はありません。
申立書の書き方のポイント
申立書には、申し立ての理由や求める内容を具体的に記載します。感情的にならず、事実を客観的に書くことが大切です。
別居の経緯や現在の生活状況、相手方の収入について知っていることがあれば記載します。子どもがいる場合は、誰と同居しているか、学校や習い事の状況なども書きましょう。
希望する婚姻費用の金額も記載しますが、この段階では概算で構いません。調停の中で算定表を参考にしながら適切な金額を決めていきます。
字が読みにくいと手続きが遅れる可能性があるため、丁寧に記入することを心がけましょう。
調停で決まる婚姻費用の金額はどのくらい?
実際にどの程度の婚姻費用がもらえるのか、具体的な金額について見ていきましょう。
婚姻費用の金額を決める要素は以下のとおりです。
- 婚姻費用算定表による標準的な計算
- 夫婦それぞれの収入額
- 子どもの人数と年齢
- 特別な事情による調整
具体例とともに詳しく解説します。
婚姻費用算定表の見方
家庭裁判所では「婚姻費用算定表」を使って標準的な金額を算出します。この表は、義務者と権利者の収入、子どもの人数と年齢に基づいて作られています。
表の縦軸が義務者の年収、横軸が権利者の年収を表します。両方の収入が交わる部分を見ると、婚姻費用の目安がわかります。
子どもがいない場合、子どもが1人の場合、2人の場合など、家族構成によって異なる表を使います。子どもの年齢も0〜14歳と15歳以上で分かれています。
算定表はあくまで目安であり、個別の事情によって調整されることもあります。
夫婦の収入による金額の違い
収入差が大きいほど、婚姻費用の金額も高くなります。例えば、夫の年収が600万円で妻の年収が100万円の場合と、夫の年収が400万円で妻の年収が200万円の場合では、前者の方が高い金額になります。
給与所得者の場合は源泉徴収票の支払金額、自営業者の場合は確定申告書の所得金額を基準にします。ただし、自営業者については実際の生活レベルなども考慮されることがあります。
収入が不安定な場合は、過去数年間の平均を取ることもあります。また、働く能力があるのに働いていない場合は、潜在的稼働能力を考慮して収入を認定されることもあります。
子どもの人数・年齢による影響
子どもの人数が多いほど、また年齢が高いほど婚姻費用は高くなります。15歳以上の子どもは0〜14歳の子どもよりも生活費や教育費がかかるとされています。
子ども1人の場合と2人の場合では、単純に2倍になるわけではありません。家族が増えることによる効率性も考慮されているためです。
大学生の子どもがいる場合、私立大学の学費など特別な費用がかかることもあります。このような場合は算定表の金額に上乗せされることがあります。
実際の金額例を紹介
具体的な例を見てみましょう。夫の年収500万円、妻の年収100万円、子ども1人(10歳)の場合、婚姻費用は月額8〜10万円程度が目安となります。
夫の年収800万円、妻が専業主婦、子ども2人(8歳と12歳)の場合は、月額12〜14万円程度になります。
これらはあくまで標準的なケースの目安です。住宅ローンを誰が負担するか、子どもの教育費に特別な事情があるかなど、個別の状況によって調整されます。
婚姻費用分担請求調停の流れと期間
調停がどのように進んでいくのか、実際の流れを時系列で説明します。
調停手続きの主な流れは次のとおりです。
- 申し立てから第1回調停期日の設定
- 第1回調停期日での話し合い
- 第2回目以降の継続的な協議
- 調停成立または不成立による終了
各段階について詳しく見ていきましょう。
申し立てから第1回調停まで
申立書を提出すると、裁判所で書類の確認が行われます。不備がなければ、約2週間後に第1回調停期日の通知が申立人と相手方の両方に郵送されます。
第1回期日は申し立てから約1か月後に設定されることが多いです。平日の日中に行われるため、仕事の調整が必要な場合は早めに準備しましょう。
相手方が期日に出席しない可能性もありますが、その場合でも調停は開かれます。相手方の出席を促すため、裁判所から連絡が行くこともあります。
期日の変更が必要な場合は、できるだけ早く裁判所に連絡しましょう。
調停当日の進み方
調停当日は、指定された時間に家庭裁判所に行きます。調停室では調停委員2名と裁判官1名が待機していますが、通常は調停委員が中心となって進行します。
待合室での待機
申立人と相手方は別々の待合室で待機します。顔を合わせることなく調停を進められるよう配慮されています。
調停が始まるまでの時間を利用して、話したいことを整理しておきましょう。メモを持参しても構いません。
調停委員との面談
調停委員は中立的な立場で、双方の話を聞きます。まず申立人から話を聞き、その後相手方の話を聞くという形で交互に進みます。
調停委員は法律の専門家ではありませんが、家庭問題に詳しい経験豊富な方々です。わからないことがあれば遠慮なく質問しましょう。
相手方との交互の話し合い
基本的に申立人と相手方が直接話し合うことはありません。調停委員が間に入って、それぞれの意見や希望を相手に伝えます。
時には調停委員から解決案が提示されることもあります。その場で即答する必要はないので、よく考えてから返事をしましょう。
2回目以降の調停
第1回で合意に至らない場合、通常は1か月後に第2回期日が設定されます。必要に応じて第3回、第4回と続くこともあります。
回数を重ねるごとに、お互いの主張が整理され、現実的な解決案が見えてくることが多いです。焦らず、じっくりと話し合いを進めることが大切です。
追加の資料提出を求められることもあります。収入証明書や家計簿など、必要な書類は速やかに準備しましょう。
調停成立までの期間の目安
婚姻費用分担請求調停は、申し立てから成立まで平均して3〜4か月程度かかります。複雑な事情がある場合や、当事者の意見が大きく異なる場合は、さらに時間がかかることもあります。
調停が不成立になった場合は自動的に審判に移行し、さらに数か月を要することがあります。全体では半年以上かかるケースも珍しくありません。
ただし、緊急性が高い場合は「調停前の仮処分」という制度を利用できることもあります。生活に困窮している場合は、弁護士に相談してみましょう。
調停で聞かれることと準備すべき資料
調停では様々なことを聞かれるため、事前の準備が重要です。
調停委員から質問される主な内容は以下のとおりです。
- 双方の収入や資産の状況
- 現在の生活費の内訳
- 別居に至った経緯と事情
- 今後の生活設計や希望
具体的にどのような準備をすればよいか説明します。
収入に関する質問と必要書類
最も重要なのは収入に関する情報です。申立人は自分の収入を正確に報告し、相手方の収入についてわかる範囲で情報を提供します。
給与所得者の場合、源泉徴収票、給与明細書(直近3か月分)、賞与明細書などを用意します。昇給や昇格があった場合は、その旨も伝えましょう。
自営業者の場合は確定申告書の控え、青色申告決算書、収支内訳書などが必要です。売上が不安定な場合は、過去数年分の資料があると参考になります。
相手方の収入がわからない場合でも、おおよその見当がつけば伝えましょう。勤務先や職種がわかれば、調停委員が適切な収入を推定してくれます。
生活費の内訳について
現在の生活費がどの程度かかっているかも重要な情報です。家計簿をつけていない場合でも、主要な支出項目について概算を準備しておきましょう。
住居費(家賃、住宅ローン、管理費など)、食費、光熱費、通信費、交通費、保険料、子どもの教育費など、月々の固定費を整理します。
特別な支出がある場合は、その理由も説明できるようにしておきます。子どもの習い事、医療費、介護費用などです。
家計簿アプリやレシートを活用して、できるだけ正確な数字を把握しておくことをおすすめします。
別居に至った経緯
別居の経緯についても質問されることがあります。これは有責性の判断や、今後の見通しを立てるために必要な情報です。
いつから別居を始めたか、別居のきっかけは何だったか、現在の夫婦関係はどのような状況かなどを客観的に説明します。
感情的になりがちな部分ですが、事実を淡々と述べることが大切です。相手を非難するような表現は避け、自分の状況を中心に話しましょう。
今後離婚を考えているのか、復縁の可能性があるのかについても、率直に答えることが求められます。
有利に進めるための準備のコツ
調停を有利に進めるためには、事前の準備が欠かせません。まず、必要な書類をすべて揃え、コピーも用意しておきます。
質問されそうなことについて、あらかじめ回答を考えておきましょう。メモを持参しても構いませんが、読み上げるのではなく、要点を整理して自分の言葉で話すことが大切です。
感情的にならず、冷静に対応することも重要です。調停委員は事実を知りたがっているので、正直に答えることで信頼を得られます。
わからないことは「わからない」と素直に言いましょう。嘘をついたり、曖昧な答えをしたりすると、後で困ることになります。
調停が成立した場合の効果
調停が成立すると、どのような効果があるのでしょうか。
調停成立による主な効果は次のとおりです。
- 調停調書の作成と法的効力
- 支払いが滞った場合の強制執行
- 調停成立後の注意すべき点
- 事情変更による変更の可能性
それぞれについて詳しく説明します。
調停調書の重要性
調停が成立すると「調停調書」が作成されます。この調書には、合意した婚姻費用の金額、支払方法、支払期間などが詳細に記載されます。
調停調書は確定判決と同じ効力を持つ重要な書類です。単なる約束ではなく、法的な拘束力があります。
調書の内容は非常に具体的に書かれます。「毎月末日までに10万円を指定口座に振り込む」「支払いは離婚成立まで継続する」といった具合です。
調停調書は大切に保管しましょう。紛失した場合は家庭裁判所で再発行してもらえますが、手続きに時間がかかります。
支払いが滞った時の強制執行
相手方が調停調書の内容を守らず、婚姻費用の支払いを怠った場合、強制執行の申し立てができます。
強制執行では、相手方の給与、預貯金、不動産などの財産を差し押さえることができます。特に給与の差し押さえは効果的で、毎月確実に回収できる可能性が高いです。
強制執行の申し立ては地方裁判所で行います。調停調書、相手方の財産に関する情報、執行費用などが必要になります。
手続きが複雑なため、弁護士に依頼することをおすすめします。費用はかかりますが、確実に回収できる可能性が高まります。
調停成立後の注意点
調停が成立した後も、いくつか注意すべき点があります。まず、支払いが確実に行われているか定期的に確認しましょう。
支払いが遅れた場合は、すぐに相手方に連絡を取ります。単なる忘れの場合もあるので、まずは穏やかに確認することが大切です。
調停調書の内容に疑問が生じた場合は、家庭裁判所や弁護士に相談しましょう。解釈が分かれる場合があるためです。
また、調停で決まった内容は、その後の離婚調停や離婚訴訟にも影響することがあります。一貫性を保つことが重要です。
調停が不成立になった場合はどうなる?
調停で合意に至らなかった場合の手続きについて説明します。
調停不成立後の流れは以下のとおりです。
- 自動的な審判手続きへの移行
- 審判での裁判官による判断
- 審判結果に不服がある場合の対応
- 審判確定までの期間
詳しく見ていきましょう。
自動的に審判手続きに移行
調停が不成立になると、申立人が特別な手続きをしなくても、自動的に審判手続きが開始されます。新たに申し立てをする必要はありません。
審判では、調停で提出された資料や聞き取った内容がそのまま引き継がれます。一から説明し直す必要はありませんが、追加の主張がある場合は書面で提出できます。
審判期日は調停不成立から2週間〜1か月以内に設定されることが多いです。十分な資料が揃っている場合は、期日を開かずに書面審理だけで審判が下されることもあります。
審判手続きでは、より法的な観点から判断が行われます。感情的な要素よりも、客観的な事実と法的基準が重視されます。
審判での決定方法
審判では裁判官が最終的な判断を下します。婚姻費用算定表を基本としながら、個別の事情も考慮して金額を決定します。
裁判官は調停の経緯、双方の収入資料、生活状況などを総合的に判断します。調停で合意に至らなかった理由も考慮されることがあります。
審判では当事者の合意は必要ありません。裁判官が適切と判断した内容が審判書に記載され、それが最終的な決定となります。
審判書も調停調書と同様に、確定判決と同じ効力を持ちます。強制執行の申し立ても可能です。
審判の結果に不服がある場合
審判の内容に不服がある場合、審判書を受け取った日から2週間以内に即時抗告を申し立てることができます。
即時抗告は高等裁判所に対して行います。審判を下した家庭裁判所に申し立てると、高等裁判所に書類が送られます。
ただし、即時抗告をしても審判の内容が変更される保証はありません。むしろ、自分に不利な変更がなされる可能性もあります。
即時抗告を検討する場合は、弁護士によく相談してから決めることをおすすめします。費用対効果も含めて慎重に判断しましょう。
離婚調停と同時に申し立てるメリット・デメリット
婚姻費用の調停と離婚調停を同時に申し立てることもできます。
同時申し立ての特徴は次のとおりです。
- 手続きの効率化によるメリット
- 複雑化によるデメリット
- どちらを選ぶべきかの判断基準
- 実際の進行方法
それぞれについて詳しく解説します。
同時申し立てのメリット
最大のメリットは手続きの効率化です。同じ調停委員が両方の事件を担当するため、事情を一から説明する手間が省けます。
期日も同じ日に設定されることが多く、裁判所に通う回数を減らせます。仕事を休む回数も最小限に抑えられるでしょう。
離婚と婚姻費用は密接に関連しているため、総合的な解決が図りやすいというメリットもあります。離婚の条件と婚姻費用をセットで考えることで、より現実的な合意に達しやすくなります。
費用面でも、申立手数料は別々にかかりますが、弁護士費用などは効率化できる可能性があります。
考えられるデメリット
一方で、手続きが複雑になるというデメリットもあります。離婚の条件(親権、財産分与、慰謝料など)と婚姻費用を同時に話し合うため、論点が多くなりがちです。
離婚については時間をかけて慎重に検討したいが、婚姻費用は急いで決めたいという場合、同時申し立てが適さないことがあります。
また、離婚調停が長期化した場合、婚姻費用の決定も遅れてしまう可能性があります。生活費に困っている場合は、婚姻費用を先に解決した方がよいでしょう。
感情的な対立が激しい場合、離婚の話し合いが婚姻費用の協議にも悪影響を与えることがあります。
どちらを選ぶべきかの判断基準
同時申し立てを選ぶべきかどうかは、以下の点を考慮して判断しましょう。
生活費に困窮している場合は、婚姻費用を優先して申し立てることをおすすめします。離婚の話し合いは後回しにしても、まずは当面の生活を安定させることが大切です。
離婚の意思が固く、できるだけ早く全体的な解決を図りたい場合は、同時申し立てが効率的です。
相手方との関係がそれほど悪化していない場合は、同時申し立てでも建設的な話し合いができる可能性があります。
複雑な財産関係がある場合は、専門家の助言を求めながら慎重に判断しましょう。
婚姻費用分担請求調停を成功させる5つのポイント
調停を有利に進めるための具体的なポイントをお伝えします。
成功のための重要なポイントは以下のとおりです。
- 早めの申し立てが重要
- 必要書類の準備を怠らない
- 感情的にならず事実を伝える
- 相手方の収入を把握しておく
- 弁護士への相談を検討する
各ポイントについて具体的に説明します。
1. 早めの申し立てが重要
婚姻費用は請求した時点から発生するのが原則です。別居を始めてから申し立てまでの期間が長いと、その分だけ受け取れる金額が少なくなってしまいます。
別居後すぐに相手方と話し合いを始め、合意が得られない場合は速やかに調停を申し立てましょう。「そのうち話し合えるだろう」と先延ばしにするのは得策ではありません。
内容証明郵便で婚姻費用を請求してから調停を申し立てると、請求の意思が明確になります。後日、請求時期について争いになることを防げます。
緊急性が高い場合は、調停前の仮処分という制度もあります。弁護士に相談して検討してみましょう。
2. 必要書類の準備を怠らない
調停では客観的な資料が重要な役割を果たします。口頭での説明だけでは説得力に欠けるため、できるだけ多くの書類を用意しましょう。
収入関係の書類は最も重要です。源泉徴収票、給与明細、確定申告書など、正確な収入を証明できる資料を準備します。
生活費の実態を示すため、家計簿やレシート、通帳のコピーなども有効です。子どもの教育費については、学校からの請求書や月謝の領収書を用意しましょう。
相手方の収入について知っている情報があれば、それを裏付ける資料も探してみます。給与明細のコピーなどがあれば非常に有効です。
3. 感情的にならず事実を伝える
調停では冷静な対応が求められます。相手方への不満や怒りがあっても、感情的になると建設的な話し合いができません。
調停委員は事実を知りたがっています。「相手がひどい人だから」という理由ではなく、「収入がこれだけあって、生活費がこれだけかかるから」という客観的な根拠を示しましょう。
相手方を批判するような発言は避け、自分の状況を中心に説明します。「困っている」「助けてほしい」という気持ちを素直に伝えることが大切です。
質問には正直に答えましょう。嘘をついたり、都合の悪いことを隠したりすると、調停委員の信頼を失ってしまいます。
4. 相手方の収入を把握しておく
婚姻費用の金額は相手方の収入によって大きく左右されます。できるだけ正確な収入を把握しておくことが重要です。
給与所得者の場合、勤務先、役職、勤続年数などがわかれば、おおよその収入を推定できます。源泉徴収票や給与明細を見たことがあれば、その内容を思い出してメモしておきましょう。
自営業者の場合は収入の把握が難しいですが、事業の規模、取引先、生活レベルなどから推測できることもあります。
相手方が収入を過少申告する可能性もあります。実際の生活レベルと申告収入に大きな差がある場合は、その旨を調停委員に伝えましょう。
5. 弁護士への相談を検討する
複雑な事情がある場合や、相手方が非協力的な場合は、弁護士への相談を検討しましょう。法的な専門知識があると、より有利に調停を進められます。
弁護士費用が心配な場合は、法テラスの利用を検討してみてください。収入が一定額以下の場合、無料相談や費用の立て替えを受けられる可能性があります。
初回相談は無料という法律事務所も多いので、まずは気軽に相談してみることをおすすめします。
弁護士に依頼しない場合でも、一度相談を受けておくと、調停での対応方法がわかって安心できるでしょう。
よくある疑問と解決方法
調停に関してよく寄せられる疑問について、具体的な解決方法をお伝えします。
よくある疑問と対処法は以下のとおりです。
- 相手が調停に来ない場合の対応
- 相手の収入がわからない時の対策
- 調停中の生活費が足りない場合
- 婚姻費用の支払いを拒否された時
それぞれについて詳しく解説します。
相手が調停に来ない場合
相手方が調停期日に出席しない場合でも、調停は開かれます。申立人だけでも調停委員と話し合いを行い、次回期日を設定することができます。
裁判所から相手方に出席を促す連絡が行われます。電話や書面で出席の重要性を説明し、協力を求めます。
それでも出席しない場合は、調停不成立として審判に移行することになります。審判では相手方の出席がなくても手続きが進められます。
相手方の住所が不明な場合は、住民票や戸籍の附票を取得して現住所を調べる必要があります。それでも見つからない場合は、公示送達という特別な手続きを利用することもあります。
相手の収入がわからない時
相手方の収入が不明な場合でも、調停を申し立てることは可能です。調停の中で相手方に収入資料の提出を求めることができます。
相手方が収入資料の提出を拒否した場合、裁判所から提出を促されます。それでも提出しない場合は、申立人の主張や一般的な収入水準を参考に推定されることがあります。
勤務先がわかっている場合は、その会社の規模や業種から推定することも可能です。上場企業であれば有価証券報告書で平均給与を確認できます。
調停委員は豊富な経験を持っているため、職業や年齢、生活レベルなどから適切な収入を推定してくれることが多いです。
調停中の生活費が足りない場合
調停が長期化して生活費に困った場合、いくつかの対処方法があります。
まず、調停委員に生活状況の厳しさを訴えましょう。緊急性が認められれば、早期の解決に向けて働きかけてもらえることがあります。
調停前の仮処分や審判前の仮処分という制度もあります。これは緊急性が高い場合に、暫定的に婚姻費用の支払いを命じる制度です。
生活保護の申請も検討できます。婚姻費用の調停中であっても、現在の収入で生活できない場合は生活保護の対象となる可能性があります。
親族からの援助や、一時的な借り入れなども選択肢の一つです。ただし、後で婚姻費用から返済することを明確にしておきましょう。
婚姻費用の支払いを拒否された時
調停や審判で婚姻費用が決まったにもかかわらず、相手方が支払いを拒否する場合があります。
まず、調停調書や審判書の内容を確認し、支払い義務が明確に記載されていることを確認しましょう。
相手方に対して、支払い義務があることを書面で通知します。内容証明郵便を利用すると、通知したことの証拠が残ります。
それでも支払われない場合は、強制執行の申し立てを検討します。給与の差し押さえが最も効果的ですが、預貯金や不動産の差し押さえも可能です。
強制執行の手続きは複雑なため、弁護士に依頼することをおすすめします。費用はかかりますが、確実に回収できる可能性が高まります。
まとめ
今回の記事では、婚姻費用の分担請求調停について、基本的な仕組みから実際の手続きまで詳しく解説しました。以下に要点をまとめます。
- 婚姻費用分担請求調停は別居中の生活費を確保するための法的手続き
- 申し立て費用は約2,000円と安く、必要書類を揃えれば誰でも利用可能
- 婚姻費用算定表を基準に、双方の収入と子どもの状況で金額が決まる
- 調停は平均3〜4か月、合意できない場合は自動的に審判に移行
- 調停調書は強制執行が可能な法的効力を持つ重要な書類
- 早めの申し立てと十分な準備が成功の鍵
- 複雑な事情がある場合は弁護士への相談も検討する
別居中の生活費に困っているなら、一人で悩まず制度を活用することが大切です。婚姻費用の請求は法律で認められた正当な権利であり、遠慮する必要はありません。
まずは必要な書類を集めて、管轄の家庭裁判所に相談してみましょう。調停制度を上手に活用して、安定した生活基盤を確保してください。