役員報酬と税金の関係が丸わかり!計算方法&節税対策を専門家が詳しく解説

役員報酬と税金の関係について、頭を悩ませている経営者の方は多いのではないでしょうか。「いくら税金を払うことになるのか」「手取りはどれくらい残るのか」「会社全体で考えたときに最適な金額は」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

役員報酬は単なる給料ではありません。設定する金額によって、個人の所得税や住民税、社会保険料はもちろん、会社の法人税にも大きく影響します。つまり、役員報酬の決め方ひとつで、あなたの手元に残るお金が大きく変わってしまうのです。

この記事では、2025年の基礎控除改正を反映した最新の情報をもとに、役員報酬と税金の関係をわかりやすく解説します。計算方法から具体的な節税対策まで、経営者として知っておきたいポイントを詳しくお伝えしていきますね。

役員報酬にかかる税金の基本的なしくみ

役員報酬にかかる税金のしくみは、一般的な給与とは少し異なる特徴があります。まずは基本的な部分から理解していきましょう。

役員報酬の税務上の取り扱いには、次のような特徴があります。

  • 個人側では給与所得として扱われる
  • 所得税・住民税・社会保険料の3つが発生する
  • 法人側では一定の条件で損金算入できる

ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

役員報酬は「給与所得」として扱われる

役員報酬は税務上、一般の従業員と同じ「給与所得」として取り扱われます。これは意外に思われるかもしれませんが、役員であっても会社から受け取る報酬は給与と同じ扱いになるのです。

給与所得として扱われることで、給与所得控除という仕組みを使うことができます。これは会社員の必要経費のようなもので、年収に応じて一定の金額を控除してもらえる制度です。

ただし、役員報酬には一般の給与にはない厳しいルールがあります。たとえば、年度の途中で自由に金額を変更することはできません。

所得税・住民税・社会保険料の3つが発生

役員報酬から差し引かれる主な負担は、所得税、住民税、そして社会保険料の3つです。

所得税は国に納める税金で、年収が高くなるほど税率も上がる累進課税制度が採用されています。住民税は都道府県と市区町村に納める税金で、基本的に一律10%の税率です。

社会保険料には健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料が含まれます。これらは会社と個人で半分ずつ負担することになっており、役員報酬の金額に応じて保険料も決まります。

法人側では損金算入のルールがある

会社側から見ると、役員報酬は一定の条件を満たせば「損金」として計上できます。損金とは、法人税を計算するときの経費のようなものです。

ただし、役員報酬を損金として認めてもらうには、厳格なルールを守る必要があります。最も一般的なのは「定期同額給与」という仕組みで、毎月同じ金額を支払うことが条件となります。

また、役員報酬の金額が常識的な範囲を超えて高額な場合は、その超過部分が損金として認められないこともあります。

役員報酬から差し引かれる給与所得控除の計算方法

給与所得控除は、役員報酬の手取り額を大きく左右する重要な仕組みです。2025年の改正内容も含めて、詳しく見ていきましょう。

給与所得控除の特徴は以下のとおりです。

  • 年収に応じて控除額が段階的に決まる
  • 最低55万円から最高195万円まで設定されている
  • 2025年の基礎控除改正で計算方法が変わった

順番に解説していきます。

給与所得控除額の早見表

給与所得控除は年収によって控除額が決まります。2025年現在の控除額は次のとおりです。

年収給与所得控除額
162万5千円以下55万円
162万5千円超180万円以下年収×40%-10万円
180万円超360万円以下年収×30%+8万円
360万円超660万円以下年収×20%+44万円
660万円超850万円以下年収×10%+110万円
850万円超195万円(上限)

たとえば年収500万円の場合、500万円×20%+44万円=144万円が給与所得控除額となります。

年収別の具体的な計算例5パターン

実際の計算例を見てみましょう。

年収300万円の場合
給与所得控除額:300万円×30%+8万円=98万円
給与所得:300万円-98万円=202万円

年収500万円の場合
給与所得控除額:500万円×20%+44万円=144万円
給与所得:500万円-144万円=356万円

年収800万円の場合
給与所得控除額:800万円×10%+110万円=190万円
給与所得:800万円-190万円=610万円

年収1000万円の場合
給与所得控除額:195万円(上限)
給与所得:1000万円-195万円=805万円

年収1500万円の場合
給与所得控除額:195万円(上限)
給与所得:1500万円-195万円=1305万円

控除額が最大195万円になる理由

給与所得控除に上限が設けられているのは、高所得者の税負担を適正化するためです。年収が850万円を超えると、控除額は一律195万円で頭打ちになります。

これは、給与所得者の必要経費として認められる金額には合理的な限度があるという考え方に基づいています。実際の必要経費が195万円を超える場合は、特定支出控除という別の制度を利用することも可能です。

ただし、特定支出控除を利用するには、会社からの証明書や領収書の保管など、かなり厳格な手続きが必要になります。

役員報酬の金額設定で変わる税負担シミュレーション

役員報酬の金額によって、実際の税負担がどのように変わるのかを具体的に見てみましょう。

シミュレーションのポイントは次のとおりです。

  • 年収300万円・500万円・800万円で比較
  • 社会保険料も含めた手取り額を計算
  • 法人税への影響も考慮した総合判断

詳しく計算してみましょう。

年収300万円・500万円・800万円の比較

年収300万円の場合

  • 給与所得控除:98万円
  • 基礎控除:88万円(2025年改正後)
  • 課税所得:300万円-98万円-88万円=114万円
  • 所得税:約5万7千円
  • 住民税:約11万4千円
  • 社会保険料:約43万円
  • 手取り額:約240万円

年収500万円の場合

  • 給与所得控除:144万円
  • 基礎控除:68万円(2025年改正後)
  • 課税所得:500万円-144万円-68万円=288万円
  • 所得税:約19万円
  • 住民税:約28万円
  • 社会保険料:約71万円
  • 手取り額:約382万円

年収800万円の場合

  • 給与所得控除:190万円
  • 基礎控除:63万円(2025年改正後)
  • 課税所得:800万円-190万円-63万円=547万円
  • 所得税:約57万円
  • 住民税:約54万円
  • 社会保険料:約114万円
  • 手取り額:約575万円

社会保険料込みの手取り額計算

社会保険料は役員報酬の手取り額に大きな影響を与えます。健康保険料と厚生年金保険料を合わせると、標準報酬月額の約15%程度が個人負担となります。

注意したいのは、社会保険料には上限があることです。厚生年金保険料は標準報酬月額65万円、健康保険料は139万円(協会けんぽの場合)で上限に達します。

つまり、非常に高額な役員報酬を設定しても、社会保険料の負担は一定額で頭打ちになるのです。

法人税への影響も含めた総合判断

役員報酬を増やすと個人の税負担は増えますが、会社の法人税は減ります。この両方を考慮して、最適な金額を見つけることが大切です。

たとえば、会社の利益が1000万円ある場合を考えてみましょう。

役員報酬500万円の場合

  • 個人の手取り:約382万円
  • 会社の利益:500万円
  • 法人税:約150万円
  • 合計手残り:約732万円

役員報酬800万円の場合

  • 個人の手取り:約575万円
  • 会社の利益:200万円
  • 法人税:約60万円
  • 合計手残り:約775万円

このように、役員報酬を増やした方が手残りが多くなるケースもあります。

役員報酬を活用した5つの節税対策

役員報酬を上手に活用することで、税負担を軽減できる方法がいくつかあります。ここでは実践的な5つの対策をご紹介します。

効果的な節税対策は以下のとおりです。

  • 定期同額給与のルールを守って安定節税
  • 役員退職金の活用で将来の税負担を軽減
  • 家族を役員にして所得分散する方法
  • 役員賞与の適切な活用タイミング
  • 社会保険料の上限を意識した報酬設定

それぞれ具体的に説明していきます。

定期同額給与のルールを守って安定節税

定期同額給与は、役員報酬を損金算入するための最も基本的な仕組みです。毎月同じ金額を支払うことで、会社の経費として認めてもらえます。

この制度を活用するポイントは、年度開始から3か月以内に金額を決定し、その後は1年間変更しないことです。途中で金額を変更すると、変更分が損金として認められなくなってしまいます。

また、株主総会での決議と議事録の作成も必要です。一人会社の場合でも、形式的に株主総会を開催して議事録を残しておきましょう。

役員退職金の活用で将来の税負担を軽減

役員退職金は、退職所得として非常に優遇された税制が適用されます。退職所得控除という大きな控除があり、さらに残った金額の2分の1だけが課税対象となります。

たとえば、役員として20年間勤務した場合の退職所得控除は800万円です。退職金が1000万円なら、(1000万円-800万円)÷2=100万円だけが課税所得となります。

ただし、役員退職金を支給するには、実際に役員を退任する必要があります。また、金額が過大と判断されると、一部が損金として認められないこともあります。

家族を役員にして所得分散する方法

配偶者や子どもを役員に就任させて報酬を支払うことで、所得を分散して税負担を軽減できます。所得税は累進課税なので、一人に集中させるより分散した方が有利になります。

ただし、家族役員には実際に役員としての職務を行ってもらう必要があります。名前だけの役員で実態が伴わない場合は、税務調査で否認される可能性があります。

また、家族役員の報酬額は、その人の職務内容や能力に見合った「相当な金額」である必要があります。

役員賞与の適切な活用タイミング

役員賞与(事前確定届出給与)を活用することで、業績に応じた報酬の支給が可能になります。ただし、支給時期と金額を事前に税務署に届け出る必要があります。

この制度を使うメリットは、好業績の年に多めの報酬を支給し、業績が悪い年は少なくできることです。ただし、届け出た内容と異なる支給を行うと、全額が損金不算入となってしまいます。

届出は株主総会の決議から1か月以内に行う必要があり、手続きが複雑なため、税理士と相談しながら進めることをおすすめします。

社会保険料の上限を意識した報酬設定

社会保険料には上限があるため、非常に高額な役員報酬を設定する場合は、この点も考慮に入れましょう。

厚生年金保険料は標準報酬月額65万円(年収780万円相当)で上限に達します。健康保険料は協会けんぽの場合、標準報酬月額139万円(年収1668万円相当)が上限です。

つまり、これらの金額を超える役員報酬を設定しても、社会保険料の負担は増えません。高額所得者にとっては、実質的な税率が下がることになります。

役員報酬の変更手続きと注意すべきポイント

役員報酬を変更したいときは、正しい手続きを踏む必要があります。間違った方法で変更すると、税務上のトラブルにつながる可能性があります。

役員報酬変更の重要なポイントは次のとおりです。

  • 株主総会での決議が必要な理由
  • 期中変更が認められる特別な事情
  • 税務調査で指摘されやすい3つのケース

詳しく解説していきます。

株主総会での決議が必要な理由

役員報酬の変更には、必ず株主総会での決議が必要です。これは会社法で定められており、役員が勝手に自分の報酬を決めることを防ぐためのルールです。

株主総会では、役員報酬の総額または個別の金額を決議します。議事録も必ず作成し、決議の内容を明確に記録しておきましょう。

一人会社の場合でも、この手続きは省略できません。自分が唯一の株主であっても、形式的に株主総会を開催して議事録を作成する必要があります。

期中変更が認められる特別な事情

原則として、役員報酬は事業年度の途中で変更することはできません。しかし、特別な事情がある場合は例外的に変更が認められることがあります。

認められる可能性がある事情としては、業績の著しい悪化、役員の職務内容の大幅な変更、経営環境の急激な変化などがあります。

ただし、これらの事情があっても、必ず変更が認められるわけではありません。税務署の判断によるため、事前に税理士と相談することをおすすめします。

税務調査で指摘されやすい3つのケース

税務調査では、役員報酬について次のような点がよく指摘されます。

1つ目は、定期同額給与の要件を満たしていないケースです。毎月の支給額が異なっていたり、期中に変更していたりすると問題となります。

2つ目は、家族役員の報酬が過大と判断されるケースです。実際の職務内容に比べて報酬が高すぎると、一部が損金として認められません。

3つ目は、株主総会の議事録に不備があるケースです。決議の内容が曖昧だったり、議事録の作成日付が間違っていたりすると指摘を受けることがあります。

よくある役員報酬の税務トラブル事例

実際の税務調査では、どのような問題が起こりやすいのでしょうか。よくあるトラブル事例を知っておくことで、事前に対策を講じることができます。

代表的なトラブル事例は以下のとおりです。

  • 過大役員報酬として否認されたケース
  • 定期同額給与に該当しないと判断された事例
  • 家族役員の報酬が否認される理由

実際の事例を見ながら、注意点を確認していきましょう。

過大役員報酬として否認されたケース

過大役員報酬とは、その会社の規模や業績に比べて明らかに高すぎる役員報酬のことです。税務調査で過大と判断されると、超過部分が損金として認められません。

たとえば、年商1000万円の小さな会社で役員報酬を月額100万円に設定していた場合、常識的に考えて高すぎると判断される可能性があります。

過大かどうかの判断基準は明確ではありませんが、同業他社の水準、会社の収益力、役員の職務内容などが総合的に考慮されます。

定期同額給与に該当しないと判断された事例

定期同額給与の要件を満たしていないと判断されるケースもあります。よくあるのは、「毎月同額」の解釈を間違えているケースです。

たとえば、基本給は毎月同額だが、業績に応じて手当を上乗せしていた場合、全体として毎月の支給額が異なることになります。これは定期同額給与とは認められません。

また、社会保険料の改定に合わせて役員報酬を調整した場合も、定期同額給与の要件を満たさないと判断される可能性があります。

家族役員の報酬が否認される理由

家族を役員にして報酬を支払う場合、その報酬が否認されるケースがあります。最も多い理由は、実際に役員としての職務を行っていないことです。

たとえば、配偶者を取締役に就任させたものの、実際は家事に専念していて会社の業務には関与していない場合、その報酬は否認される可能性があります。

また、職務内容に比べて報酬が高すぎる場合も問題となります。パートタイムで簡単な事務作業をしているだけなのに、月額50万円の報酬を支払っていたら、明らかに過大と判断されるでしょう。

役員報酬の最適化を専門家に相談するメリット

役員報酬の設定は、税務・労務・経営の知識が必要な複雑な分野です。専門家に相談することで、多くのメリットを得ることができます。

専門家に相談するメリットは次のとおりです。

  • 個別事情に応じたシミュレーション
  • 将来の事業計画も含めた総合提案
  • 税務調査対策も含めたサポート体制

それぞれ詳しく見ていきましょう。

個別事情に応じたシミュレーション

会社の規模、業種、将来の計画などは、それぞれ異なります。専門家に相談することで、あなたの会社の状況に最適な役員報酬を設定できます。

たとえば、設備投資を予定している会社と、安定的な収益を重視する会社では、最適な役員報酬の金額は異なります。専門家なら、こうした個別事情を考慮したアドバイスができます。

また、複数のシミュレーションを比較検討することで、最も有利な選択肢を見つけることができます。

将来の事業計画も含めた総合提案

役員報酬の設定は、単年度だけでなく中長期的な視点で考える必要があります。専門家なら、将来の事業計画も含めた総合的な提案ができます。

たとえば、数年後に事業拡大を予定している場合、現在の役員報酬をどう設定すべきか、将来の退職金をどう準備するかなど、包括的なアドバイスを受けることができます。

また、税制改正の動向も踏まえた提案を受けることで、将来のリスクを最小限に抑えることができます。

税務調査対策も含めたサポート体制

専門家に相談することで、税務調査への備えも万全にできます。適切な議事録の作成方法、必要な書類の保管方法など、実務的なアドバイスを受けることができます。

万が一税務調査が入った場合も、専門家がサポートしてくれるので安心です。調査官との対応や、必要な資料の準備なども任せることができます。

また、定期的な見直しを行うことで、常に最適な状態を維持することができます。

まとめ:役員報酬と税金の関係を理解して賢い経営を

今回の記事では、役員報酬と税金の関係について、基本的なしくみから具体的な節税対策まで幅広く解説しました。以下に重要なポイントをまとめます。

  • 役員報酬は給与所得として扱われ、所得税・住民税・社会保険料が発生する
  • 2025年の基礎控除改正により、年収200万円以下の税負担が軽減された
  • 給与所得控除は年収に応じて55万円から195万円まで段階的に設定されている
  • 役員報酬の金額設定により個人と法人の税負担バランスが大きく変わる
  • 定期同額給与のルールを守ることで安定的な節税効果を得られる
  • 家族役員の活用や退職金制度の併用で更なる節税が可能
  • 役員報酬の変更には株主総会での決議と適切な手続きが必要

役員報酬の設定は、経営者にとって最も重要な判断のひとつです。単に税金を安くするだけでなく、会社の資金繰りや将来の計画も考慮して決める必要があります。

複雑な制度だからこそ、専門家のアドバイスを受けながら、あなたの会社に最適な役員報酬を見つけてください。適切な設定により、手元に残る資金を最大化し、安定した経営基盤を築いていきましょう。