職場で「その商品、既存のサービスとカニバってない?」なんて言葉を聞いたことはありませんか。最近のビジネスシーンでよく使われる「カニバる」という表現。なんとなく意味は分かるけれど、正確にはどういう意味なのでしょうか。
この記事では、ビジネス用語「カニバる」の基本的な意味から実際の使い方、具体的な事例、そして注意すべきポイントまで分かりやすく解説していきます。新商品の企画や事業戦略を考える際に知っておきたい重要な概念です。
「カニバる」の基本的な意味
「カニバる」という言葉の背景には、マーケティングの世界でよく使われる専門用語があります。まずは基本的な意味から見ていきましょう。
カニバリゼーションから生まれたビジネススラング
「カニバる」は、英語の「カニバリゼーション(cannibalization)」から派生したビジネススラングです。カニバリゼーションとは、直訳すると「共食い」という意味。
ビジネスの世界では、自社の商品やサービス同士が競合し合って、お互いの売上を奪い合ってしまう現象を指します。つまり、本来なら他社と競争すべきところを、自分の会社の中で競争してしまっている状態のことなんです。
自社競合が起こる状態を指す言葉
具体的には、同じ会社が作った似たような商品が市場に出回り、どちらも同じお客さんを狙ってしまうことで起こります。例えば、ある飲料メーカーがビールと発泡酒の両方を販売していて、発泡酒の売上が伸びる代わりにビールの売上が下がってしまう。これが典型的な「カニバる」状態です。
新しい商品を出したのに、会社全体の売上は変わらない。むしろ下がってしまうこともある。そんな困った状況を表現するときに使われる言葉なのです。
なぜ「カニバる」という現象が起こるのか?
カニバリゼーションが発生する原因は、いくつかのパターンに分けることができます。主な原因を理解しておくことで、事前に対策を立てることも可能になります。
ターゲット層の重複が主な原因
最も多い原因は、商品やサービスのターゲット層が重なってしまうことです。新しい商品を企画するとき、既存商品のお客さんと同じ層を狙ってしまうと、どうしても競合が起きてしまいます。
例えば、20代女性向けの化粧品ブランドが、同じく20代女性をターゲットにした新しいスキンケアラインを出すとします。価格帯も似ていて、販売チャネルも同じだったら、お客さんはどちらか一方を選ぶことになりますよね。
社内コミュニケーション不足による情報共有の問題
大きな会社になると、部署間でのコミュニケーション不足が原因でカニバリゼーションが起こることもあります。A部署が新商品を企画している間に、B部署も似たような商品を開発していた。お互いのことを知らないまま、同時期に似た商品が市場に出てしまうパターンです。
特に事業部制を採用している企業では、各部署が独立して動いているため、こうした問題が起きやすくなります。
商品・サービスの差別化が不十分
商品の特徴や売りポイントが曖昧で、既存商品との違いがはっきりしない場合も要注意です。お客さんから見て「結局どちらも同じようなもの」と思われてしまうと、価格の安い方や手に入りやすい方を選ばれてしまいます。
差別化のポイントが弱いと、せっかく新商品を出しても既存商品の売上を食ってしまうだけで終わってしまうのです。
カニバるとどんな問題が起こる?デメリット3つ
カニバリゼーションが起こると、企業にとって様々な問題が発生します。特に意図しないカニバリゼーションは、経営に深刻な影響を与える可能性があります。
1. 社内資源の無駄遣いが発生する
本来なら他社との競争に使うべき経営資源を、社内での競争に使ってしまうことになります。開発費、マーケティング費、人件費など、限られた予算を効率的に使えなくなってしまうのです。
新商品の開発に1億円かけたのに、既存商品の売上が1億円分下がってしまったら、実質的には何も得られていないことになります。それどころか、開発にかかったコストの分だけ損失が出てしまいます。
2. 他社との競争力が低下してしまう
社内で競争している間に、競合他社に市場シェアを奪われるリスクが高まります。自分たちが内輪もめをしている隙に、ライバル企業が新しい商品を出して顧客を奪っていく。そんな状況になりかねません。
また、似たような商品を複数展開することで、ブランドイメージが曖昧になってしまう可能性もあります。お客さんから見て「この会社は何が得意なのか分からない」と思われてしまうかもしれません。
3. 本来の売上目標が達成できなくなる
新商品を出すときは、通常「既存商品の売上+新商品の売上」で全体の売上アップを目指します。しかし、カニバリゼーションが起こると、新商品の売上が既存商品の売上減少で相殺されてしまいます。
結果として、期待していた売上成長が実現できず、事業計画の見直しが必要になることもあります。投資家や株主への説明も難しくなってしまいます。
実は良い面もある?カニバることのメリット
カニバリゼーションと聞くと悪いことばかりのように思えますが、実は戦略的に活用することでメリットを得ることも可能です。
市場シェアを盤石にできる
自社商品で市場を埋め尽くすことで、競合他社の参入を防ぐ効果があります。お客さんの選択肢を自社商品の中だけに限定することで、市場シェアを独占状態に近づけることができるのです。
例えば、コンビニエンスストアが同じエリアに複数店舗を出店するドミナント戦略も、この考え方の一つです。店舗同士でお客さんを奪い合うことになりますが、そのエリア全体を自社ブランドで占有できます。
社内競争で品質向上が期待できる
社内で競争が起こることで、各部署や各商品のチームが切磋琢磨し、より良い商品やサービスを作ろうとする意識が高まります。
競争があることで、「負けられない」という気持ちが生まれ、イノベーションや改善が促進される効果も期待できます。結果として、お客さんにとってより魅力的な商品が生まれる可能性があります。
他社の参入を防ぐ効果がある
市場に自社商品が多数存在することで、新規参入を考えている他社にとってハードルが高くなります。「この市場はもう飽和している」と判断され、競合他社が参入を諦める可能性が高まるのです。
また、お客さんにとっても選択肢が豊富にあることで、わざわざ他社の商品を試す必要性を感じなくなります。
「カニバる」の具体例を見てみよう
実際のビジネスシーンでは、どのような場面でカニバリゼーションが起こっているのでしょうか。身近な事例を通して理解を深めてみましょう。
Webメディアでの記事重複問題
オウンドメディアを運営している企業でよく起こるのが、似たような記事を複数公開してしまうケースです。例えば、「ダイエット方法」について書いた記事が複数あると、Googleの検索エンジンがどの記事を上位表示すべきか判断に迷ってしまいます。
結果として、どの記事も検索上位に表示されにくくなり、本来得られるはずだったアクセス数を逃してしまうことになります。これも立派なカニバリゼーションの一例です。
東京ディズニーランドとディズニーシーの関係
オリエンタルランドが運営する東京ディズニーランドと東京ディズニーシーも、当初はカニバリゼーションの問題を抱えていました。ディズニーシーがオープンした当初は、来場者がランドとシーに分散してしまう状況だったのです。
しかし現在では、ランドは子ども向け、シーは大人向けというように明確にターゲットを分けることで、それぞれ異なる顧客層を獲得することに成功しています。これはカニバリゼーションを上手に解決した好例と言えるでしょう。
自動車業界の戦略的カニバリ活用
自動車業界では、意図的にカニバリゼーションを活用している例が多く見られます。同じメーカーが似たようなスペックや価格帯の車を複数販売し、複数の販売店を展開することで、市場全体を自社ブランドで占有しようとしています。
これにより、ディーラー同士の競争でサービス向上が図られ、他社ディーラーが参入する隙を与えず、お客さんの選択肢を自社内に限定することができています。
コンビニのドミナント戦略
コンビニエンスストアが駅周辺に同じブランドの店舗を複数出店するのも、戦略的カニバリゼーションの典型例です。確かに店舗同士で売上を奪い合うことになりますが、そのエリア全体での知名度向上や、他社の参入阻止という効果を狙っています。
お客さんにとっても、どこに行っても同じブランドのコンビニがあるという安心感や利便性を提供できています。
カニバることを防ぐための対策方法
意図しないカニバリゼーションを防ぐためには、事前の対策が重要です。以下のポイントを押さえることで、リスクを大幅に減らすことができます。
ターゲット設定をより細かく行う
大まかなターゲット設定ではなく、ペルソナレベルまで詳細に設定することが大切です。年齢や性別だけでなく、ライフスタイル、価値観、購買行動まで具体的に想定しましょう。
例えば、同じ30代女性でも「子育てに忙しい専業主婦」と「キャリアを重視する独身女性」では、求める商品やサービスは全く異なります。このレベルまで細分化することで、ターゲットの重複を避けることができます。
社内での情報共有体制を強化する
部署間でのコミュニケーションを活発化し、新商品の企画段階から情報を共有する仕組みを作りましょう。定期的な会議や情報共有ツールの活用により、似たような商品の開発を事前に防ぐことができます。
特に大企業では、商品開発の初期段階で他部署との調整を行う仕組みを制度化することが重要です。
既存商品との差別化ポイントを明確にする
新商品を企画する際は、既存商品との違いを明確に定義しましょう。価格、機能、デザイン、販売チャネルなど、複数の観点から差別化を図ることが大切です。
差別化ポイントは、お客さんにとって分かりやすく、価値を感じられるものである必要があります。単なる機能の違いではなく、「どんな問題を解決してくれるのか」という視点で考えることが重要です。
戦略的にカニバることを活用する方法
カニバリゼーションは必ずしも避けるべきものではありません。戦略的に活用することで、競争優位を築くことも可能です。
市場独占を狙うときの使い方
特定の市場で圧倒的なシェアを獲得したい場合、意図的に複数の商品を展開することが有効です。お客さんの様々なニーズに対応できる商品ラインナップを揃えることで、市場全体を自社ブランドで占有できます。
ただし、この戦略を成功させるためには、十分な経営資源と市場分析が必要です。競合他社の動向も常に監視し、適切なタイミングで実行することが重要になります。
競合他社の参入を阻止する手法
新しい市場セグメントに他社が参入しようとしているとき、先回りして複数の商品を投入することで参入を阻止できます。市場が飽和状態に見えることで、他社の参入意欲を削ぐ効果があります。
この手法は、特に成長市場や新興市場で効果的です。ただし、短期的には利益率が下がる可能性があるため、長期的な視点での判断が必要です。
自社ブランド力を高める効果的な活用法
複数の商品が市場に存在することで、ブランドの露出機会が増え、認知度向上につながります。お客さんにとって「この分野といえばこの会社」という印象を与えることができれば、長期的な競争優位を築けます。
ブランド力の向上は、新商品の導入時にも有利に働きます。既に信頼されているブランドの新商品であれば、お客さんに受け入れられやすくなるからです。
「カニバる」の正しい使い方と注意点
「カニバる」という言葉を実際に使う際は、いくつかの注意点があります。適切な使用場面を理解して、効果的にコミュニケーションを図りましょう。
ビジネスシーンでの適切な使用場面
「カニバる」は主に社内での会議や企画検討の場面で使われます。「この新商品、既存のAシリーズとカニバる可能性はないか?」「マーケティング戦略を見直さないと、商品同士がカニバってしまう」といった使い方が一般的です。
動詞として「カニバる」、名詞として「カニバリ」、進行形として「カニバっている」など、様々な活用形で使うことができます。
社外の人には使わない方が良い理由
「カニバる」はあくまでもビジネススラングであり、正式な用語ではありません。取引先や顧客との会話では「自社競合」「社内競合」といった正式な表現を使う方が適切です。
特に年配の方や他業界の方には通じない可能性が高いため、相手に応じて言葉を選ぶことが大切です。
言い換え表現を覚えておこう
「カニバる」の代わりに使える表現をいくつか覚えておくと便利です。「自社競合が発生する」「社内で競合する」「商品同士が競合する」「売上の奪い合いが起こる」などが適切な言い換え表現になります。
フォーマルな場面では、「カニバリゼーション」という正式な用語を使うのも良いでしょう。相手や状況に応じて、最も適切な表現を選んで使い分けることが重要です。
まとめ
今回の記事では、ビジネス用語「カニバる」について詳しく解説してきました。以下に重要なポイントをまとめます。
「カニバる」とは自社の商品やサービス同士が競合し、売上を奪い合ってしまう現象のことです。英語の「カニバリゼーション(共食い)」から生まれたビジネススラングで、主に社内での会議や企画検討の場面で使われています。
この現象が起こる主な原因は、ターゲット層の重複、社内コミュニケーション不足、商品の差別化不足の3つです。意図しないカニバリゼーションは、社内資源の無駄遣い、競争力の低下、売上目標の未達成といった問題を引き起こします。
一方で、戦略的に活用すれば市場シェアの独占、品質向上、他社参入の阻止といったメリットも得られます。自動車業界やコンビニのドミナント戦略など、実際に成功している事例も多く存在しています。
カニバリゼーションを防ぐためには、詳細なターゲット設定、社内情報共有の強化、明確な差別化が重要です。また、「カニバる」という言葉は社内では使えますが、社外の方との会話では「自社競合」などの正式な表現を使う方が適切でしょう。
新商品の企画や事業戦略を考える際は、この「カニバる」という概念を意識して、より効果的な施策を検討してみてくださいね。